JDC技術委員会のEPUBに関する取り組み
講演者
工藤智行(サイパック取締役社長)
講演内容
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有限会社サイパックの工藤です。
今日は、JDC技術委員会のEPUBに関する取り組みということで、お話しします。
JDCは、日本DAISYコンソーシアムの略です。
略してJDCと呼んでいます。
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JDCの技術委員会は、昨年3月から活動を開始しました。
委員会は、ほぼ毎週土曜日に実施している状況です。
主な活動内容は、アクセシビリティの観点で、日本のEPUB書籍のレイアウト、読み上げなどを、利用者の要求に応じて切り替えられる仕様制定について活動しています。
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今日は、JDC技術委員会で議論している内容の中から、4つ、重点的なテーマを話します。
1つは、ナビゲーションについてです。
これまでの発表の中でも、ナビゲーションが大事だと取り上げられていました。
分かち書き、縦組・横組の切り替え、ルビ、このあたりについて、話します。
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まず、ナビゲーションとは何か、です。
今、かなり世の中で音声読み上げについては、いろいろとアクセシビリティにとって大事だとの理解はありますが、音声読み上げさえできればアクセシブルだと、逆に誤解があるようなんです。
実は、音声読み上げだけの読書は、かなり中途半端で、ナビゲーションの機能が十分に備わっていないと、しっかりとした読書にならない。
音声での読書にとって、ナビゲーション機能は必須なものと位置づけられます。
ナビゲーションは、読み上げしている場所、位置の移動を中心とした操作体系です。
主として、リーディングシステムが提供する機能を使って、ナビゲーションを行えるようにしないといけない。
画面を読み上げながら使っている方は、スクリーンリーダ等の支援技術を利用して操作をされます。
こうしたスクリーンリーダを使って、しっかりとナビゲーションできる、またはキーボードから入力してナビゲーションできる機能の提供が重要となります。
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具体的に、どのようなナビゲーション操作が必要となるか。
例えば、前回読んだ場所から再生したい。
本を連続して1冊、最後まで読むことは、あまりないと思います。
最後に読んだ場所から、自動的に読み上げが開始されてほしい。
これは基本的なことです。
目次やインデックスの一覧の中から、目的の場所を見つけて移動する操作。
本文の中に、自分の注目したい箇所に、何カ所かしおりのようなものを打っておいて、そのしおりの場所にぱっと移動して読み上げを再開する操作。
あるいは、今読んでいる章の前の章に戻りたい、次の章にスキップしたい、あるいは、章の中に節があったら、前の節や次の節に移動するといった、大きな単位での移動。
それから、ページ単位の移動。前のページ、次のページ。指定ページ。
学校教育の現場だと、先生から「32ページを開いてください」といった指示が出ます。
同様の形で、32ページから読み上げできるようにすることも、重要なナビゲーションの操作の1つになります。
各文章は、それぞれ段落の形で分かれています。
その段落の単位で、次の段落や1つ前の段落に行ったり。
今読んでいる段落の頭に移動して、もう1度読む。
今の段落の内容を読みたいといった操作もナビゲーション機能です。
さらに、段落の中が複数のフレーズに分かれている場合は、フレーズの単位で前後に移動して、内容の理解を深める。そういったことが、音声での読み上げでは非常に重要です。
音声なので、読み上げに時間がかかります。
5秒前、10秒前、30秒前、1分前など、時間単位で前後に移動できるのも、重要なナビゲーションの操作体系の1つになります。
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次に、高度なナビゲーションの操作です。
なかなか実装が追いついていないところもありますが、一部のアクセシブルなリーディングシステムでは既に実現されています。
例えば表の読み上げです。
表を読み上げた場合、どこからどこまでが1つのセルか、音声だけだと分かりづらいということがあります。
表の中をタテヨコを自由に移動しながら中身を読み上げ、二次元的な情報をしっかり把握できるようにしなければいけないというニーズがあります。
読み上げの際、縦方向に移動したり、あるいは横方向に移動しながら読んだり、
見出しも合わせて読み上げながら読むなど表の二次元構造をしっかり把握できるのが、非常に大事なポイントになります。
現在の読み上げ位置が音声でしっかり把握できないと、自分が本の中のどこにいるかが分かりません。
例えば、現在の章、節の名前、あるいは全体が何ページで、今何ページを読んでいるかといった位置情報、また全体の音声の再生時間でいったときのパーセンテージなど、読み上げ位置の把握が、大事なことになります。
音声読み上げによる読書では、ナビゲーション機能が不十分だと、極めて読みにくい読書体験となってしまいます。
ナビゲーション機能が標準的なリーディングシステムにしっかり実装されるよう、働きかけが重要です。
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次にルビについて。
一般的なEPUBのリーディングシステムで、ルビの付いている箇所を読み上げると、多くの場合、親文字とルビを二度読みしてしまう問題があります。
例えば、このスライドの右上に、参考の文章があります。
「それでは話にならない」という文章です。
「話」に「はなし」とルビが振られています。
こちらを二度読みすると、どうなるか。
「それでははなしはなしにならない」となり、元の文章と意味が変わってしまいます。
それ以外にも、ルビと親文字を2回読むと、なかなか内容の理解が困難になるケースが多々あります。
これを何とかしたいのが、今の課題です。
それから、本日、実際の当事者の方から、ルビがあると読めない。
ルビがあるとかえって漢字に付加情報がくっついて、1文字として認識されるのでルビがあると読めない。
逆にルビを必要としている人もいます。
また、すべての漢字にルビの振られている総ルビで読まないと、読書ができない人もいます。
なかには、総ルビである程度読書をして、一定程度、学習が進んだ段階で、底本通りのルビの表示で読みたい要求もあります。
このルビの表示は、表示と非表示を柔軟に切り替えられる仕組みが重要になります。
ほかにも、ルビの文字色、サイズやフォント、親文字とルビの間の距離、このあたりを自由にコントロールできるようなリーディングシステム側の仕組みも重要です。
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もう1つ、ルビと読み上げの関係で重要なのは、ルビを利用した正しい読み上げの方法です。
ルビの読み上げに関してやっかいな問題としてあるのは、行間注と義訓の問題。
例えば、「織田信長」という親文字に対して、行間注、生年・没年が記入されている。
そして、義訓と呼ばれる、元の漢字に対して違う読みを振る。
「生命」に対して「いのち」、「牛乳」に対して「ミルク」とルビを振る。
親文字を読まずにルビだけ読むと、情報が欠落する。
このような場合、親文字だけでなくルビも一緒に読むとか、利用者側からコントロールできる方法が必要だと考えます。
そのためには、ルビが読みを示すものなのか、そうではないかを明示する必要があります。
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ルビに関する書誌情報について、JDCで議論が進んでいて、その中では、総ルビ表示が可能、パラルビ表示が可能、底本通りのルビ、と3種類についてしっかり書誌情報に盛り込む必要があると思われます。
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次に、分かち書きについて。
分かち書きされてないと読みにくい人がいます。
逆に分かち書きされてると読みにくい方もいらっしゃいます。
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分かち書きを実現するためには、分かち書きが動的にオンオフできる仕組みが必要になります。
<wbr>というタグがあります。
それを利用すれば、このタグの解釈で空白にしたり、何も表示しないなど、動的に切り替えができます。
これを積極的に進めたいとJDCでは考えています。
もし分かち書きを空白文字で表示したとき、表示を切り替えられないとなるので、この事実についてもしっかりと書誌情報に反映する必要があります。
今日的なリーディングシステムになると、日本語の構文解析の機能をもたせて、構文解析で自動的に分かち書きの場所を分かち書きとして表示するというような実装を行っているアクセシブルなリーディングシステムのものもあります。
このような動きにも状況をとらえながら、標準化に組み込みたいと思います。
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分かち書きの書誌情報としては、分かち書きされていない表示が可能であることの明記、あるいは、分かち書きの情報をしっかり埋め込み、著者、編集者、出版社の意図どおりの分かち書きが可能だと書誌情報に組み込まれる必要がある。
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次、縦組・横組の切り替えについて。
縦組だと読みにくい方がいらっしゃいます。
逆に、視野の欠損等で、横組だと読みにくい人もいます。
書籍が縦組なのか横組なのか、表示が切り替えられる機能、利用者のニーズに応じて切り替えられる機能が重要です。
そのため、EPUBには縦組用スタイルシート、横組用スタイルシートを両方組み込む機能が標準化の中に組み込まれようとしています。
Alternate Style Tags 1.2という文書の中で是非が行われ、これが今後、標準化につながります。
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縦組・横組の書誌情報としては、書誌情報に、縦組が可能、横組が可能と、情報を明示する方法を検討しています。
大きなポイントは、文中で、縦組の方向、横組の方向を前提としたスタイル、例えば「下図の」「左図の」とあったとき、どうするか。
理想的には、それぞれの表記に応じて文中の記載を切り替えることですが、なかなか実装の面で難しいと思われます。
元になった底本が縦組か横組か、どちらを前提として記載されてるかについても、書誌情報に埋め込み、利用者がその書誌情報を簡単に参照できるような仕組みが必要になります。
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次に、ボーンアクセシブルという言葉について説明します。
ルビ、分かち書き、縦組・横組切り替えについては、すべて1つのEPUBで、利用者のニーズに応じてリーディングシステムの表示を切り替えることができる。
このような仕組みを前提に、JDCでは仕様の策定を進めています。
健常者も障害者も、同じ1つのEPUBを使って読書ができる。
それぞれの障害は様々な多様性を持っているので、障害に応じて自由に表示を切り替えて、ボーンアクセシブルな電子出版が実現できればいいなと、仕様の策定を進めています。
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JDCの取り組みとしては、ほかにも、EPUBの文章構造を生かした音声読み上げによる読書の利点の取りまとめを行っています。
フラットテキストに対して、ナビゲーションを含むアクセシビリティ面の優位性がどこにあるか、また、EPUBのリーディングシステムに要求されるアクセシビリティ関連機能の文書化、ナビゲーション機能、ルビ、分かち書きの機能、縦組・横組切り替え機能について文書化して公開していきたいと思います。
このあたりの書誌情報が世界的な仕様として組み込まれるようにONIX、Schema.orgと協調しながら、仕様の策定を進めているところです。
Schema.orgはEPUB内部に持つ書誌情報の規定をしているところです。
ONIXについては、電子書店、図書館など、EPUBの外部で持っている書誌情報の持ち方を定めている団体です。
私からの発表は以上です。
私のスライドのこの後のページに、JDCの技術委員会でどのようなことをやってるか、技術情報のサマリーがあるので、もしお時間があればご覧いただければと思います。